日常生活において、ペットボトルをつかむ、あるいは、スマートフォンに文字を入力するといった行動をするとき、私たちはペットボトルの形やスマートフォンの画面の感触を頼りに行動しています。もし、ペットボトルの形が判らなければうまく掴むことができないように、脳は多くの感覚情報を用いて目的に合致した筋肉の活動を生み出します。このように、ペットボトルを掴んで飲み物を飲むといった精緻な協調を必要とする運動を行うには、皮膚や筋肉からの感覚応答と脳からの自発的な運動制御が連関していると考えられてます。
ペットボトルのような物体の形や材質などの情報は、その物体に手が接触することと身体自身が動くことで、身体中の皮膚や筋肉に散りばめられている膨大な数の感覚受容器でそれらを組み合わされて、筋肉の活動を制御する脊髄に集められます。また、自発的な運動を行うときには、身体の運動を司る大脳皮質の運動野からこれから実行しようとする運動についての指令信号が同じく脊髄に送られます。これまで、動物やヒトを用いた長年の研究から、末梢の感覚受容器からの感覚信号と運動野からの運動指令信号は、筋肉を支配している脊髄の運動ニューロンに収束するということがわかり、脊髄運動ニューロンは末梢からの感覚信号と脳からの運動指令信号の統合の場であると考えられてきました。しかし、従来の研究では感覚受容器や運動野の神経の活動を人工的に活性化して調べられたにすぎず、実際の運動中において感覚信号と運動指令信号がどのように筋肉の活動を生み出すのに関わっているのか不明でした。
そこで、新たな研究では、運動を行っている際の感覚信号と運動指令信号、そして筋肉の活動を同時記録し、感覚信号と運動指令信号がどのように筋肉の活動を生み出しているのかを調べました。その結果、身体の動きが始まる前に見られる筋肉の活動は、運動野の活動によって生成されていますが、身体が動いている時の筋肉の活動は、運動野と感覚受容器の双方の活動によって生成されていることが確認されています。つまり、自発的な運動は、皮膚や筋肉からの感覚信号と脳からの運動指令信号が異なるタイミングで筋肉の活動に繋がっているようです。だから、運動するときは、「ながら運動」は、あまり効果が少ないと言えるようです。
by スカラー
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