脳科学の第一人者で、京都大学の名誉教授が、「『脳トレ』には科学的な根拠がないことが、大規模調査で明らかになっていて、同様に世間には科学的な根拠のない『脳の神話』が広まっているので、注意が必要と言っています。研究から得た成果であっても、それを分かり易く伝えるため、あえて簡略化、あるいは誇張して公表することで、間違った内容で広まることがあります。また、きわめて不十分なデータから大胆な結論を出したり、単なる推測や仮説をあたかも事実であるかのように断言することで広まることもあるようです。その背景には、常に分かり易い解説を求めるマスメディアの存在があります。
一般的に、ある部位の血流がより増大していると、その部位がより働いていると解釈されてしまいます。例えば、他者の顔を覚える課題を行っているとき、側頭葉の血流が増えれば、顔を記憶するときは側頭葉が働いており、そこで記憶が形成されると解釈され、働いているということは「良いこと」であると解釈されます。だから、血流量が増大している=脳がよく働いている=それは良いことである、という解釈の典型が、全国的に流行ったコンピュータゲームやドリルによる「脳トレ」です。脳トレの根拠となった研究では、単純な計算、あるいは漢字の演習や音読などを繰り返すと、特に高次機能に関わるとされている前頭葉の血流が広い範囲で増大するという結果が得られたので、研究者は、脳トレが脳を鍛えて衰えを防ぐ、あるいは脳の機能を向上させると結論づけました。そして、脳トレ用のコンピュータゲーム機は全世界で3000万個以上売れ、シリーズで発売されているドリル類も、国内で合計数百万冊のベストセラーとなり、それは現在も続いています。
しかし、海外で実施された大規模調査の結果、高齢者が脳トレを繰り返しても、認知機能や記憶機能が改善するという事実は確認されず、認知症の予防効果もなかったことが確認されています。脳トレをすると前頭葉の血流量が増えるというデータはまちがいない事実であることから、脳の血流量の増大、つまりニューロン集団の活動量の増大は、必ずしも機能の向上にはつながらないということです。脳の機能が向上すると逆に血流量が減ること、正確にいえば、血流が増大する範囲が狭くなることがわかっています。それまでできなかったこと、あるいは不得意であったことができるようになると、つまりそのことに関わる脳の機能が向上すると、脳の広い範囲で増えていた血流が、次第に狭い範囲でのみ増えるようになるので、広範囲での血流量が増えることは決して良くないとのことです。
by 倍筋愚
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